がん検診の中でも、『大腸がん検診』はコストや手間も少なく(便を容器に採取するという行為に抵抗のある方はおられるでしょうが・・)、比較的ハードルが低い検診のひとつかもしれません。がん検診の趣旨としては、参加するハードルを下げで、多くの受診者を得て、がんの早期発見と早期治療導入に結び付けることで最終的には対象となるがんの生存率、治癒率を向上されるものだと思います。
その観点からすると、大腸がん検診は他のがん検診と比べると、自宅で検体を採取でき、場合によるとポストへ入れて結果を待てばよいので、ラクチンな検診といってもよいですね。
ただし、その結果に対する判断にはややもすると、落とし穴があるかもしれません。というのは、大腸がん検診で検出されるのは、がん細胞の存在ではなく、微量の出血反応(ヒトヘモグロビン)であるということです。どういうことかと申しますと、‘がん’が大腸内にできると、腸の中を進んでくる便塊が、正常の大腸粘膜よりはるかに脆く出血しやすい‘がん’の表面と接触することで、にじみ出た血液が便の中に絡み混入し、この便中の微量出血を検出しようというものです。よって、陽性反応のあった場合は、精密検査として大腸内視鏡検査をお勧めすることになります。ただ、ここでお気づきの方も多いと思いますが、出血イコール‘がん’の徴候というのは、オーバーであるということです。がんにまで進んでいなくても良性のポリープ、さらには腸炎、痔、異常血管からの出血などといったいわゆる良性疾患でも、便潜血反応が陽性になります。よって、大腸がん検診でひっかかって要精査と判定されたといっても、直ちにがんと判定されたわけではなく、「なんらかの出血原因を念のため調べておきましょう」という程度のニュアンスとご理解ください。便潜血検査で陽性の方が実際に内視鏡検査などでがんと確定診断されるのは2%程度と言われていますが、がんより悪性度の低いポリープまで広げると、便潜血陽性の方の半分程度で発見されると言われています。ですから、初めて便検査で陽性と指摘された方は、念のため精密検査をご検討ください。
一方、陰性との判定の場合、ほっと胸をなでおろされることとおもいますが、ポリープや早期がんが存在しても陰性である場合があります。であれば、便潜血の結果は全く信用できないのではと思われるかもしれませんし、初めから全員に内視鏡検査を勧めるべきという議論もありますが、これは精密検査(内視鏡検査)を実施する側のキャパシティの問題もあり、便の潜血反応をもって一定の線引きを行っているのです。ですから、腹部症状や便通異常がある(急に便秘傾向になっている、便は出るが細く少しづつしか出ない、排便前に急に差し込むような腹痛があり排便後に症状が良くなる、便秘と下痢を繰り返す、明らかな肉眼的な血便がある、便に粘液が混じることがある、便やガスのにおいが腐敗臭の様など)、大腸腫瘍の病歴又は家族歴がある等といった場合は、便潜血反応の結果の如何にかかわらず、精密検査を考慮いただく必要があるということです。
大腸内視鏡検査
精密検査の方法は、精度からすると大腸内視鏡検査がもっとも勧められますが、やはり羞恥心や人づてに聞く‘苦しい検査’というイメージから、内視鏡検査は敬遠されがちです。長年、大腸内視鏡検査に携わってきましたが、受けられる方の苦しさやしんどいという声はゼロにはなりません。検査医の技量もさることながら、受けられる方の体型、手術歴(腸管癒着の有無)、大腸の緊張度(個人差があります)、大腸憩室の有無などにより、検査中の苦痛・違和感は個々によって、また同じ方でもその日の体調によっても変わることもあります。緊張感で腹筋に力が入りすぎても、スコープがスムーズに進んでいかないこともあり、適宜鎮静剤や鎮痛剤を使用しリラックスしていただく方が、比較的楽に受けていただけることが多いとは思います。ただし、これらの薬剤の副作用で呼吸が浅くなったり、血圧が下がることもあり、検査後もしばらく頭がボーとしてふらついたりすることもありますので、これらの薬剤を希望の方は可能な限り付き添いの方との同行頂くようにお願いいたします。
検査の準備(前処置)も施設ごとに少しづつ違いがあり、当院では前日夕まで普通に生活して頂き(前日の食事は消化の良いものを指導)、特殊な下剤を検査当日の検査開始4時間前(遅くても2時間前)から飲んで頂き、腸の中をきれいに掃除します。元々、便秘気味の方は検査の2-3日前から軽めの下剤を併用して検査に臨んでいただくと、当日の検査までの流れがスムーズに運びます。
大腸腫瘍(大腸ポリープ、大腸癌など)の診断と治療
大腸の腫瘍はキノコみたいなポリープもあれば、わずかな粘膜の赤みで発見される平坦なもの、隆起が高く凸凹していて深い潰瘍を伴う一見してそれとわかる進行癌まで形態は様々です。大型のポリープの場合はやはり悪性度が高いことが多いですが、小型(10㎜以下)では良性がほとんどです。但し、良性の中でも全く心配のないもの(将来的に癌になる可能性がほとんどなく、治療不要)と、予防的な切除も考慮すべきもの(将来的がん化する可能性もあるもの)に分かれます。これば、通常の内視鏡の観察で判別することもできることもあれば、当院でも行っております拡大観察(顕微鏡のように拡大して腫瘍の表面構造を観察する)ことにより、より正確に悪性度を判別しております。従来はイチイチ腫瘍の一部かじりとって一旦腫瘍の悪性度を病理検査で判定して、別の機会に再度内視鏡を挿入し病変を切除しておりました。この場合、二度手間になるばかりか5㎜以下の小病変の場合、二度目の内視鏡の際に前回指摘の病変がなかなか見つからないこともあります。小病変の場合は襞の隙間に隠れてしまいやすいことや、生検で病変が小さくなりすぎて視認できなくなってしまう等の理由に因ります。よって、小さい病変ほど初回検査時に切除必要と診断できれば、その場で切除するに限りますので、当院でもできる限りその方針のもと、対処するようにしております。ただ、10㎜を超える大型のポリープの場合は、合併症の観点などから、より安全で確実な切除を行うため、提携病院での治療をお勧めしております。大腸癌のリスクを下げるために、一旦ポリープの無い状態(clean colon)を目指すというのが最近の考え方です。