血圧のお話
新年度の始まりからはや1ヶ月少々が経過し、新年度の健康診断を受けられている方もおられるのではないかとおもいます。
とことで、’けんしん’には健診と検診がありますが、よく混同されています。前者は、健康であるか、病気のリスクがないかどうかをチェックする事に重点をおいています。特定の疾患を拾い上げることを主目的としていないのが前提です。それに対して後者は、種々のガン検診に代表されるように、特定の疾患の有無を拾い上げることが目的です。
健診で指摘される肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症(以前は高脂血症と呼ばれていました;血中コレステロールや中性脂肪が高い状態)等はこれらの病態が命に直結するというよりは、より深刻な合併症を発症し、それによって寿命を縮めるか、命は辛うじて救われても、回復困難な後遺症を残しかねないのです。特に、若い働き盛りの方々に合併症が起こった場合は、本人や家族の身体的・精神的負担のみならず、社会的な損失が重大となります。今回は健診の項目の中でもなじみの深い、高血圧について考えてみたいと思います。
1,日本人の高血圧
2010年の国民健康・栄養調査によると、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%が高血圧(上→140以上叉は下→90以上)で、おおよそ4300万人と言われています。この数字を鵜呑みにしていいのかどうかは別としても、高血圧は我々日本人にとっては、全く他人事ではないことはご理解いただけるでしょう。
2,高血圧とは
特定の持病のない若年者では、収縮期(上)140mmHg以上かつ/または拡張期(下)90mmHg以上と定義されています。
3,合併症
高血圧そのものでも急激な上昇を来すと、頭痛やふらつきなどの症状が現れる事はありますが、多くの場合は無症状です。ですから、以下のような合併症が足音もなく近づいて、ある日突然牙をむく様が、’Silent Kller(静かなる殺人者)’と呼ばれるゆえんです。
①脳卒中
脳出血、くも膜下出血、脳梗塞
②心臓病
虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全
③血管性疾患
大動脈解離、大動脈瘤(破裂)
最近の話題として、運転中に大動脈解離を発症し、運転者自身がほぼ即死状態で、コントロールを失った自動車が歩行者に突っ込み、多くの死傷者がでたというニュースは記憶に新しいところです。高血圧を元々お持ちであったにか、治療されていたのか等の情報は有りませんが、高血圧がこの様な突発的でかつ重篤な合併症の基礎疾患なり得ることは、単純に恐ろしいとしかいいようが有りません。
④腎臓病(腎硬化症、慢性腎不全)
血液のろ過(老廃物の処理)が悪くなることで、進行し尿毒症に至ると人工透析が必要となります。
⑤網膜出血
視力を失ってしまいます。
4,健診の意義、活用法
健診での血圧測定はほぼ一発勝負です(2回測定で平均値算出される場合もあります)。健診という非日常的状況のみでも、緊張しやすい方ではそれだけで血圧上昇します。ただ、そこで引っかかって、医療機関を受診する機会を得ることが重要なのです。何故なら、受診され一過性の血圧上昇と診断されれば、生活指導のみで様子観察と判断されるわけですし、高血圧の再現性が確認されれば早期の治療導入や更なる精密検査の追加が考慮されます。高血圧以外に肥満、糖尿病、資質異常症なども併存していれば、心血管疾患の発症の危険度が高くなり、早期の治療導入を要します。当院へも、30ー40歳代の方で、健診結果で高血圧を指摘され、受信指示に従って来院されています。ただ、お仕事が多忙なためか、こちらの説明不足のせいか、若い方ぼど受診が途中で止まってしまうケースが多いように感じられます。自覚症状もなく、危機感が薄いこともありますが、仕事の忙しさにかまけて、結局放置状態になると、不幸にも静かなる殺人者の餌食になってしまうケースもあるのです。
ですから、通院継続が必要な方には、我々医療者側が責任を持って、医療継続の必要性を訴え続けないといけないと胸に刻んでおります。殺人者(合併症)が牙をむくその前までに・・・